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「ところで、皆はどうした?」


無機質な金の瞳が回りを見るが、この建物の中には人の気配が感じられなかった。


「アルは知らないのかよ?水一袋が金貨一枚だぜ?」


それは知っていた。
首都光焔でもそのぐらいの金額になりつつある。
しかし、アルは首を傾げた。


「確か3年前に充分な量を氷室に造って出て行った筈だけど」


二人はふて腐れた顔で言い募る。


「サザが考え無しに売るから!」


「………はぁ?」


無機質な瞳に氷の様な冷たい怒りが宿る。
言葉は無いが責めていた。

なんで全員で命をかけてでも止めなかった、と。


「…で、そのサザは?」


額に指を当てる。帰って来て早々に頭痛とは、どういう事だ、と唸る。
二人はアルに縋る勢いで前のめりに口を開いた。

待ってましたと言わんばかりに。


「水を汲みに行ったんだよ!」


アルは本格的に頭を抱えた。
枯渇しつつある水源。
それを独り占めしようとする輩が多い。
そんな中にあの無駄に見目麗しい妙齢の少女を連れていけばどうなるか。


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どしん、と重い音を起てて攻撃してきた人物が床に背中をしたたかに打ち付けていた。


「…ったたっ」


白い麻の外套を頭から後ろへ落とし、建物に入ったそれは右側へと眼を向けた。
こん棒を鼻先に突き付けた姿勢を崩さずに口を開く。


「甘い。」


両側から癇癪を起こす声が聞こえて、それはこん棒を右側の奴に投げた。
それを難無く受け止め、地団駄ふんだ。


「ぐあーーー!!なんで勝てねんだよーー!!」


そう易々と勝たれて堪るか、と内心で悪態を着きながら口だけを皮肉げに歪めて眺めた。


「アル!帰って来たの2年振りだっけ?3年?」


したたかに打ち付けた背中を摩りながら、話し掛ける。
アルと呼ばれたそれはくしゃりと頭を撫でながら答えた。


「約3年、かな」


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戦争が始まって15年。
砂漠化は修まる事は無い。甚大な水不足もまた、大都市にまで迫っていた。

それは第二都市、紅蓮にも言える事だった。
水を手に入れる為に金貨一枚に相当した。

治安の比較的悪い蓮南(れんなん)区ではそれは顕著だった。
水の為に殴り合うのは毎日。自分の物を盗られたく無いから、皆が疑心暗鬼になっている。


神殿様式の小さな建物の扉を開ける。
きぃ、と軽い音を起ててあっさりと開いてしまったそれに、扉を開けた本人が溜め息をついた。


「……無用心。」


呆れ果てた声で扉をより大きく開けて中に足を踏み入れた。
その瞬間に合わせた様に左右からこん棒が振り下ろされた。
自分の右側は片手でそれを受け止める。
そのままくるり、と手首を捻り相手から武器を取り上げる。
そうしながら左側は足で相手の足を払う。


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朱雀領の北側に首都、光焔(こうえん)が存在する。
以前は中央に都市を築いたらしいが、急激な砂漠化に伴い水源が枯渇していない北側に再建した。

朱雀領王、イシュバル・ヘイト・ノルディック。
彼は暗愚では無かった。
だが、賢君、とも言い難い。

理由は唯一つ。

水欲しさに他領に戦争を仕掛けたのだ。
誰もが反対したそれを強行したそれを後に静めたのは一人の少女。

今は唯の年端もいかない少女の名は、アルヴィスニア。しかしそれは彼女の真名である。
そして真名はむやみに教えてはならない。

親に捨てられた少女は第二都市、紅蓮(ぐれん)にある孤児院で育った。


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大陸ヒュージェン。
そこは悪しき神が封印された地。
他の大陸から外れたそこは、一つの国からなっていた。
現在でも国は一つであるが、長年に及ぶ統治の為に実際は四人の人物がそれぞれを統治していた。

その一つ、朱雀領は始まって以来の危機に瀕していた。
水不足に急激な砂漠化。
大陸が創られた初めにはまだ、緑豊かな場所であった。
しかし、今では木々が繁り、充分な水を湛える場所にしか人は生活していない。
そこ以外では砂しかない。

悪しき神の復活の前兆では、と騒ぎ立てる学者もいた。


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