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そんなフェンリルに話しかけたのは、長期休暇の為に一時帰宅していたシュネルだった。


「フェーンー、どしたー?」


「シュネル…」


心細いというような表情を必死に隠そうとするフェンリルを見て、シュネルは自分の父親を直ぐに睨み付けた。
ネイサンは俺は違うとばかりに手と首を高速で横に振る。

じっとシュネルはフェンリルを見詰める。
無理に微笑む少女が可哀相だった。
シュネルは少女が来たばかりの事も覚えている。
七歳も離れている妹。
しかし本当は従姉妹なのだ。
知っている。
少女の本当の兄も知っていた。
高慢で他人の事など知らぬ風で、権力を振るうその姿に怒り、フェンリルを化け物と言い切った。

その時は流石にブチ切れて、ぶん殴ってやった。
可愛い俺の妹に向かって何て事言いやがる、と。

まぁ、そのお陰で親友にもなれたが。

さらさら、とフェンリルの髪を撫でる。
ふわりと柔らかく笑う顔を見られるのは、自分の特権である。

ぐい、と膝裏と腰に腕を回して自分の目線まで持ち上げる。


「シュネル?」


きょとん、と目を大きくするフェンリルに笑みを向ける。


「何かあったのか?」


「……ううん。」


「フェーンー。ばれる嘘は付かないの」


じとり、と見つめれば、しゅんとうなだれる。
フェンリルは言わないと睨んだシュネルは父親に目を向けた。
ネイサンは息子の頭を撫でて困った顔を作る。


「ちょっとな。マルディナが来てたんだよ」


「え、あの化粧お化け?」


内心上手い、とネイサンは手を叩いて誉めるが、顔には出さない。
シュネルを軽く小突いて訂正させる。


「年上だろう。きちんと叔母さんと言いなさい。」


シュネルは母親似の深緑の瞳を拗ねた様に眇た。


「俺、あの人嫌いだ。いくらフェンの母親でも」


「あーら。フェンの母親は私の筈よ」


堂々と主張するのはフェスティナ。
いつまでも美しさを保つ美女だった。


「母さん」


シュネルはフェスティナを振り返り、フェンリルもまたその動作によってフェスティナを見上げる。


「ネイサン、何があったの?」


そう聞かれればネイサンも黙ってはいられなかった。
渋る様に、言葉を選んで告げようとするネイサンを制し、フェンリルが言う。


「マルディナがティセルを学院に入れたいらしい」


「ティセル?」


シュネルとフェスティナは同時に声を上げた。
誰だ、ティセルというのは、と無言でネイサンを睨む。


「ティセルは私の妹、らしい」


フェンリルの補足説明に二人は驚きに目を見張る。


「ネイサン?」


真偽を確認する為にフェスティナは夫を見詰める。
ネイサンはフェスティナを見て、神妙に頷いた。
事をネイサンが説明する度に、フェスティナとシュネルの顔は強張り、瞳は怒りに彩られる。
流石、親子、と暢気に考えていると、フェスティナは机を容赦無く叩いた。


「何なのよ!!フェンが要るっていうのに!!」


「そんなのが親だからウシュが選民意識の塊なんだよ!!」


ウシュ、ことウクスクルとは親友だが、こういう長期休暇の後に会うといつも、昔のあいつに戻っていた。
それが何故なのか解らなかったが、親がそうなのであれば子供もそうならざる負えない。


「ふ、二人とも、落ち着いて」


慌てるフェンリルを見ても二人は怒りは収まらない。
だから、こう言うのも当然だった。


「あんなの学院に入れても迷惑だ!!」


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