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フェンリルが我が家に来て7年。
来年にはシェルバ帝國立中央学院、通称、学院に入る事になる。 息子のシュネルは既に学徒としてあちらの寮にいる。 シュネルとフェンリルは仲が良かったから、フェンリルも嬉しそうにしていた。 しかし、あの一家が何も言って来なかった事をこの時まで不振に思わなかった自分を恨む結果になった。 それは、突然--。 「クラウス、来年にはうちの娘も学院に入れたいと思っているのよ」 突然やってきた姉、マルディナはそう切り出した。 興奮しているようで、頬は赤く、満面に喜色を讃えていた。 「……娘……?」 あんたの娘は、俺が引き取った筈だけど、と言いたかった。 だが、その言葉は音になることは無かった。 「今年で五歳になる娘がいるのよ。言わなかったかしら?」 この人は、と怒りに拳を作る。 フェンリルを棄てておいて、何も無い顔して子供を作ったのか。 マルディナはネイサンの怒りにも気付かず言葉を重ねる。 「私の娘のティセルは非常に優秀で、魔力も高いわ。いずれ『フェンリル』の名を継いでもおかしくないわ!」 「ふざけるな!!」 がたん、と大きな音をさせて椅子から立ち上がる。 この人は七年前に眼の前で付けた『フェンリル』を俺の冗談だと取ったのだ。 いきなり怒鳴った俺にマルディナは呆気に取られ、次いで皮肉げに顔を歪めた。 「なぁに。ネイサン、まさか貴方、本当にあの化け物に『フェンリル』って名付けたの?まさかね。あんなのこの世に生きていても害悪でしかないものねぇ」 うふふ、と口許を歪めて笑うその姿は、醜悪だった。 お前こそが化け物で、害悪そのもの。 そう言えば良かったのだ。 だが、言えなかった。 フェンリルがいたから。 ドアの向こうにはフェンリルがいた。 悲しそうな瞳を揺らし、感情を大きくしないように必死で堪えている。 「…そのティセル、が何?学院に入る資格を持つのは七歳以上。ティセルには早いでしょう」 「そこを貴方にお願いに来たんでしょう?何とかできない?」 できる訳なかろうが--!! 「いくら姉さんでも、無理」 流石に心の声をそのままぶつける訳にはいかないので、無下に却下する。 しかし、本来ならそれはフェンリルが決める事なのだ。 俺は前フェンリルである事と、フェンリルが幼い、と言う理由で代わってやっているに過ぎない。 「あら。そうなの。ネイサンも頭が固いのね。次期『フェンリル』候補よ?早めに知識を着けさせた方が良くなくて?」 愚問にも程がある。 眼の前のティセルとか言う娘の魔力は、たいしたことない。 俺よりも下だ。 しかし、あの一家の中では桁違いであるのも本当だ。 だが、魔力どうこうよりも問題なのは、ふてぶてしいその態度。 自分の言う事は絶対に聞いてもらえると思い込んでいる。 こんなのが集団生活など出来る筈がない。 考えるまでも無く、学院へ入る事は認められない。 「何を言おうと俺の考えは変わらないから。帰ってくれる?」 変にプライドの高い姉さんは怒りに顔を歪めて帰っていった。 ティセルは高飛車な表情だった。 「……ネイサン…?」 恐る恐るそう声をかけるのは、フェンリル。 振り返り、ネイサンは笑顔を向ける。 「何だい?フェン」 くしゃりと頭を撫でる。 灰色の猫毛が柔らかくて気持ちいい。 フェンリルは迷う様に紫の、氷のような瞳を揺らす。 「ん?」 首を傾げてフェンリルの言葉を促す。 「…あれは、受け入れた方が面倒にならなかったと思う」 「あー、そうなんだけどね。俺、あの人達嫌いだから。」 フェンリルは口をぱくぱくと開け閉めする。 驚きと明け透けな言い方に言葉が出て来ない。 「…まぁ、あんなのでも俺の姉さんで、フェンの母親、だもんなぁ」 ぐしゃぐしゃと髪を掻き交ぜながらネイサンは溜め息を付く。 不安げに揺れる瞳のまま、フェンリルは二人が出て行ったドアを見つめた。 次へ PR |
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