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オリジナル小説サイトです。 主にファンタジー、恋愛などです。
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走れば走る程足は速まった。
風の神子(みこ)が戯れながら足に纏わり付いているのが見えた。

ふ、と口が緩む。
神子にしてみれば遊んでいるにすぎないのだが、こちらとしては助かる。
景色があっという間に変わり、水場が見えた。
見えた途端、軽く跳んだ。


「ぐぎゃっ!」


たし、と軽やかに降り立ったその隣には地面にめり込んだ男。
下を見遣り、冷めた声で言った。


「久しぶりだな。下っ端」


「誰が下っ端だ!!」


がばり、と勢い良く顔を上げて怒鳴る。
すかさずアルは自分の足を下っ端と呼んだ男の頭上に乗せる。

がつん、と容赦無い力でもう一度顔面と地面に仲良くしていただいた。
踏み付け、捩込む事も忘れない。


「アルヴィ!」


ぱっと花開く様な笑顔をアルに向けた美少女にアルは苦い顔をした。


「……サザ」


げんなり、と顔に書きながら、美少女に声をかける。
その手にあった水袋もしっかりと奪って。


「サザ、その面倒を呼び込む性格直そうよ…」


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しかも質が悪い事に当の本人であるサザは、自分の容姿が群を抜いて良い事が解っていた。

昔からその事で命の危険に晒されたのは一度や二度所の話では無い。
アルは頭を抱えたまま二人に問い掛ける。


「どこの水場に行った?」


二人は声を揃えて言い放つ。


「南斗(なんと)の水場 !」


よりによって一番柄の悪い所か、とアルは舌打ちした。
それを見て二人は懇願した。


「アルーぅ。お願いだよー。サザ止められるのアルだけなんだよー」


「あんな近場なのに出て行って三十分経つのに帰る気配が無いんだよー」


半泣きの少年二人の頭をそれぞれに撫でてからアルは頭を上げた。


「確かに時間がかかりすぎだな」


二人を安心させるように笑い、ゆっくりと建物から出る。
腰に挿している剣に一度触れて存在を確かめる。

これを使わなければ良いが、と呟き扉を慎重に閉める。
次いで直ぐさま走り始めた。
真っ直ぐに南斗の水場を目指して。


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「ところで、皆はどうした?」


無機質な金の瞳が回りを見るが、この建物の中には人の気配が感じられなかった。


「アルは知らないのかよ?水一袋が金貨一枚だぜ?」


それは知っていた。
首都光焔でもそのぐらいの金額になりつつある。
しかし、アルは首を傾げた。


「確か3年前に充分な量を氷室に造って出て行った筈だけど」


二人はふて腐れた顔で言い募る。


「サザが考え無しに売るから!」


「………はぁ?」


無機質な瞳に氷の様な冷たい怒りが宿る。
言葉は無いが責めていた。

なんで全員で命をかけてでも止めなかった、と。


「…で、そのサザは?」


額に指を当てる。帰って来て早々に頭痛とは、どういう事だ、と唸る。
二人はアルに縋る勢いで前のめりに口を開いた。

待ってましたと言わんばかりに。


「水を汲みに行ったんだよ!」


アルは本格的に頭を抱えた。
枯渇しつつある水源。
それを独り占めしようとする輩が多い。
そんな中にあの無駄に見目麗しい妙齢の少女を連れていけばどうなるか。


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どしん、と重い音を起てて攻撃してきた人物が床に背中をしたたかに打ち付けていた。


「…ったたっ」


白い麻の外套を頭から後ろへ落とし、建物に入ったそれは右側へと眼を向けた。
こん棒を鼻先に突き付けた姿勢を崩さずに口を開く。


「甘い。」


両側から癇癪を起こす声が聞こえて、それはこん棒を右側の奴に投げた。
それを難無く受け止め、地団駄ふんだ。


「ぐあーーー!!なんで勝てねんだよーー!!」


そう易々と勝たれて堪るか、と内心で悪態を着きながら口だけを皮肉げに歪めて眺めた。


「アル!帰って来たの2年振りだっけ?3年?」


したたかに打ち付けた背中を摩りながら、話し掛ける。
アルと呼ばれたそれはくしゃりと頭を撫でながら答えた。


「約3年、かな」


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戦争が始まって15年。
砂漠化は修まる事は無い。甚大な水不足もまた、大都市にまで迫っていた。

それは第二都市、紅蓮にも言える事だった。
水を手に入れる為に金貨一枚に相当した。

治安の比較的悪い蓮南(れんなん)区ではそれは顕著だった。
水の為に殴り合うのは毎日。自分の物を盗られたく無いから、皆が疑心暗鬼になっている。


神殿様式の小さな建物の扉を開ける。
きぃ、と軽い音を起ててあっさりと開いてしまったそれに、扉を開けた本人が溜め息をついた。


「……無用心。」


呆れ果てた声で扉をより大きく開けて中に足を踏み入れた。
その瞬間に合わせた様に左右からこん棒が振り下ろされた。
自分の右側は片手でそれを受け止める。
そのままくるり、と手首を捻り相手から武器を取り上げる。
そうしながら左側は足で相手の足を払う。


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