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おぉ、という野太い声で構成されたどよめきを一切無視して、アルはバルアに水袋を押し付ける。
呆気に取られたバルアは無言でそれを受け取る。 「アルヴィは無駄に気前が良いんだから!」 頬を膨らませ、怒るサザにアルは渋面を向けた。 事の大きさがちっとも解っていない。 今や水一つで人を殺すのだ。 サザに氷室を管理させたのが間違いだったのだ。 アルはバルアに向き直る。 バルアは片眉を器用に吊り上げ首を傾げた。 「バルア。あんたに頼みがある。」 「アルが俺に頼み事か?明日は槍が降るか」 じろり、と睨みアルは口を開く。 「この馬鹿に任せたら孤児達が干からびるからな。」 「?干からびるって、大事だな」 まさしく大事なのだ。 サザは自分の欲望に忠実すぎる所があった。 自分の言うことを聞かない奴には徹底して嫌がらせをしてきた。 孤児院でのあだ名は 『暴君サザ』 これほど素晴らしく、ぴったりなあだ名はないだろう。 「せっかくここを出る時に作った氷室をたった3年でサザは台なしにしたんだ。」 氷室、と言う単語にバルアは眼を光らせた。 アルはバルアが食いついた事に内心ほくそ笑み、言葉を続けた。 次へ
サザと呼ばれた少女はにっこりと笑う。
「だって、喧嘩を売って来たのはあっちよ?」 「……喧嘩売られる前に何言ったのさ」 サザに非があると疑わないアル。 それに不満げに頬を膨らませるが恐怖の対象にもなりはしない。 さらに口を開こうとしたら別方向から声を出された。 「サザはあいつらが汲んだ水を横取りしたんだ」 「バルア」 厳つい男が静かに告げる。 ごろつきの中で一、二を争う実力者。 それの言葉は信頼に足るものだった。 アルはサザを睨み付けた。サザはバルアを睨む。 埒が明かない、とアルは持っていた水袋をバルアに差し出す。 「ちょっと、アル!」 慌てるのはサザ。バルアは眼を見開きアルを見つめる。 アルはその視線に何を思ったか首を傾げた。 「返すだけでは足らないか?」 ならば、と水がまだ入っていない水袋を手に取る。アルがそれに視線を注ぐだけで周囲にひんやりとした空気が漂う。 ふと視線を水袋にやれば、今まで萎んでいた袋がはち切れんばかりに膨らんでいた。 次へ
走れば走る程足は速まった。
風の神子(みこ)が戯れながら足に纏わり付いているのが見えた。 ふ、と口が緩む。 神子にしてみれば遊んでいるにすぎないのだが、こちらとしては助かる。 景色があっという間に変わり、水場が見えた。 見えた途端、軽く跳んだ。 「ぐぎゃっ!」 たし、と軽やかに降り立ったその隣には地面にめり込んだ男。 下を見遣り、冷めた声で言った。 「久しぶりだな。下っ端」 「誰が下っ端だ!!」 がばり、と勢い良く顔を上げて怒鳴る。 すかさずアルは自分の足を下っ端と呼んだ男の頭上に乗せる。 がつん、と容赦無い力でもう一度顔面と地面に仲良くしていただいた。 踏み付け、捩込む事も忘れない。 「アルヴィ!」 ぱっと花開く様な笑顔をアルに向けた美少女にアルは苦い顔をした。 「……サザ」 げんなり、と顔に書きながら、美少女に声をかける。 その手にあった水袋もしっかりと奪って。 「サザ、その面倒を呼び込む性格直そうよ…」 次へ
しかも質が悪い事に当の本人であるサザは、自分の容姿が群を抜いて良い事が解っていた。
昔からその事で命の危険に晒されたのは一度や二度所の話では無い。 アルは頭を抱えたまま二人に問い掛ける。 「どこの水場に行った?」 二人は声を揃えて言い放つ。 「南斗(なんと)の水場 !」 よりによって一番柄の悪い所か、とアルは舌打ちした。 それを見て二人は懇願した。 「アルーぅ。お願いだよー。サザ止められるのアルだけなんだよー」 「あんな近場なのに出て行って三十分経つのに帰る気配が無いんだよー」 半泣きの少年二人の頭をそれぞれに撫でてからアルは頭を上げた。 「確かに時間がかかりすぎだな」 二人を安心させるように笑い、ゆっくりと建物から出る。 腰に挿している剣に一度触れて存在を確かめる。 これを使わなければ良いが、と呟き扉を慎重に閉める。 次いで直ぐさま走り始めた。 真っ直ぐに南斗の水場を目指して。 次へ |
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